東京高等裁判所 昭和41年(行コ)1号 判決 1968年8月09日
新潟市上大川前通四番町一〇六番地
第一審原告
東光商事株式会社
右代表者代表取締役
片岡千代壱
右訴訟代理人弁護士
真野毅
阿南主税
山口信夫
鈴木富七郎
滝沢寿一
東京都千代田区内幸町一丁目二番地
第一審被告
関東信越国税局長
宮川国生
右指定代理人
山田二郎
三上正生
青木康
野田猛
志村忠一
徳永輝夫
後藤善次郎
福山正衛
右当事者間の各審査決定取消請求控訴併合事件について、当裁判所は次のように判決する。
主文
本件各控訴はいずれもこれを棄却する。
控訴費用はこれを四分し、その一を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告の負担とする。
事実
第一審原告訴訟代理人は「原判決中第一審原告敗訴の部分を取消す。第一審原告の昭和三〇年一〇月一日から昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税について、新潟税務署長の更正処分の一部を取消し、所得金額を金四、〇〇四万五、七九五円と認定した第一審被告の昭和三三年七月九日付審査決定のうち所得金額金三、二九七万二、三三七円を越える部分を取消す。第一審被告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする」との判決を求め、第一審被告指定代理人は「原判決中第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審原告の請求及び控訴はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、第一審原告において「株主相互金融方式に基く株式の売買代金は第一審原告の貸付資金となるのであり、株主優待金はその供給の対価として支払われるのであるから、実質的にみれば、消費貸借ないし消費寄託の利息に類似し、その給付は第一審原告が従前から主張している特約上の地位についてされるのであるから、資本等取引に該当しない」と述べ、証拠として、甲第六、七号証、第八号証の一、二を提出し、当審における証人稲田市作の証言及び第一審原告代表者片岡千代壱の本人尋問の結果を援用し、後記乙各号証の成立を認め、第一審被告指定代理人において「本件株主優待金の給付は、法形式的には株主そのものの内容をなす権利義務の行使、履行ではないかもしれないけれども、給付の相手方が出資者たる地位にあることを理由としてされる経済的な供与にほかならないから、いわゆる資本等取引にあたるものであり、法人が行う利益の分配にほかならない。また、株主優待金の支払を受けうる株主が第一審原告に払込んだ金員は全然なく、従つて、該株主と第一審原告との間には株式を除いて何の対価関係も存在しないことになるから、その間に消費貸借ないし消費寄託の元本に類するものも存在する余地はなく、従つて、株主優待金をその利息に類するものと解する余地もない。結局、株主優待金の支払に関する特約は、第一審原告が予想される収益に基いて、あらかじめ出資者に対して配当の定期的内払または定期的前払を約した契約と解するのが相当であり、株主優待金は第一審原告が相手方の出資者たる地位についてした会社財産の無償供与というべきである」と述べ、証拠として、乙第一三、一四、一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一八、一九号証の各一、二、第二〇ないし第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇、三一号証、第三二号証の一、二、第三三、三四、三五号証を提出し、当審証人稲田市作の証言を援用し、甲第八号証の一、二の成立を認め、その余の右甲各号証の成立については不知としたほかは、原判決事実摘示の通り(但し、事実欄「請求原因及び被告の主張に対する反駁」五の3に「株主総会」とあるのを「取締役会」と訂正する)であるから、これを引用する。
理由
当裁判所も、昭和三〇年一〇月一日から昭和三一年九月三〇日までの事業年度分法人税に関する第一原告の請求は不適法であり、その余の請求は理由があると認めるものであり、その理由は、次に附加するほかは、原判決のそれと同一(但し、理由欄六枚目裏五行目に「第三一条」とあるのを「第一三二条」と訂正する)を引用する。
乙第一八、一九、二九号証の各二、第三三、三四号証には原審認定の事実と相いれない記載があるけれども、成立に争いのない甲第四号証、乙第三二号証の一、二、第三三号証及び当審証人稲田市作の証言によれば、第一審原告は、証券取引法の改正を予想し、その改正の線に沿つて営業案内の記載を改め、相互金融約款を改正したが、その後も株主相互金融の実際の運用は従前と変らなかつたことがうかがわれるから、右乙各号証は原審の認定を左右するに足りない。
原審認定の事実によれば、株主相互金融方式による株式の売買代金を実質的に取得する者は第一審原告であり、その株式取得者は、株主となると同時に、第一審原告によつて株式の再譲渡による株式売買代金(券面額)の回収と株式所有持続期間に応じた株主優待金の支払とが約束されるのであるから、実質的にみれば、第一審原告が、株式を譲渡担保として、消費貸借ないし消費寄託により株式取得者から株式代金相当額を取得する場合と異ならず、代金が元本に、株主優待金が利息に該当するものということができる。右消費貸借ないし消費寄託の場合においても、債権者即株主であり、債権者が債権者であり、株主である間は利息が支払われ、債権譲渡ないし債権の弁済により債権者でなくなれば、同時に株主でもなくなり、利息は支払われなくなり、結局株主である間だけ利息が支払われることになるが、右利息が株主たる地位について支払われるのではなく、債権者たる地位について支払われるものであることは明らかであり、この点から考えても、株主優待金が株主たる地位について支払われるのではなく、株式の買主たる地位について支払われるのであつて、その給付が資本等取引に該当しないことは明白である。
よつて、原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することし、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九二条を適用し、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 田嶋重徳 裁判官 小堀勇)